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高血圧患者の歯科治療〜安全に受けるための注意点と対策
高血圧は日本人の3人に1人が抱える身近な疾患です。自覚症状が少ないため、気づかないうちに進行していることも少なくありません。そんな高血圧の方が歯科治療を受ける際には、いくつかの注意点があります。
歯科治療中の緊張や不安、痛みによって血圧が上昇するリスクがあるため、適切な対策が必要になるのです。
この記事では、高血圧の患者さまが安心して歯科治療を受けるための注意点と対策について、歯科医師の立場から詳しく解説します。
高血圧とは?基本的な知識
高血圧とは、血液が血管の壁を押す圧力が正常値よりも高い状態を指します。血圧は上の血圧(収縮期血圧)と下の血圧(拡張期血圧)で表されます。
日本高血圧学会の診断基準では、診察室での測定で上の血圧が140mmHg以上、または下の血圧が90mmHg以上の場合に高血圧と診断されます。家庭での測定では、これより5mmHg低い値が基準となります。
高血圧が問題となるのは、血圧自体が高いことではなく、そこからさまざまな病気を引き起こし、命を失うリスクが高まるという点です。高血圧は「沈黙の殺人者」とも呼ばれ、自覚症状がないまま進行することが多いのです。
高血圧の主な原因としては、塩分の摂りすぎが挙げられます。また、肥満、加齢、ストレス、睡眠不足、気温の変化、遺伝、アルコールの過剰摂取、運動不足なども要因となります。通常は複合的な要因が重なって発症します。
私たち歯科医師が高血圧の患者さまを診療する際には、これらの基本的な知識を踏まえた上で、適切な対応を心がける必要があります。

高血圧患者の歯科治療におけるリスク
高血圧の患者さまが歯科治療を受ける際には、いくつかのリスクが考えられます。短い治療時間でも血圧が急上昇する可能性があるため、注意が必要です。
歯科治療における高血圧患者さまのリスクは主に以下の3つに分けられます。
1. 局所麻酔薬によるリスク
歯科治療では、痛みを抑えるために局所麻酔を使用します。この麻酔薬には血管収縮剤(エピネフリン)が含まれていることが多く、これが血圧を上昇させる可能性があります。
また、麻酔薬を注射する際の痛みや不安によって、交感神経が刺激され、血圧が上昇することもあります。特に重症高血圧(180/110mmHg以上)の患者さまでは、より慎重な対応が必要です。
2. 歯科治療に伴うストレスと緊張
歯科治療に対する不安や恐怖、緊張は多くの方が感じるものです。これらの心理的ストレスによって交感神経が活性化され、血圧が上昇します。
特に歯科治療に恐怖心を持つ方では、治療前から血圧が上昇していることも少なくありません。この「ホワイトコート現象」と呼ばれる状態は、高血圧患者さまではより顕著に現れることがあります。
3. 外科処置に伴うリスク
抜歯やインプラント手術などの外科的処置では、出血のリスクが高まります。高血圧の患者さまは血圧が高いため止血しにくい場合があり、また抗凝固薬を服用している場合は出血傾向が強まることがあります。
さらに、高血圧に伴う合併症(心疾患、脳血管障害など)がある場合は、外科処置によるストレスが合併症を悪化させるリスクもあります。
これらのリスクを理解し、適切に対応することが、高血圧患者さまの安全な歯科治療には不可欠です。
高血圧患者が歯科治療を受ける際の注意点
高血圧の患者さんが歯科治療を安全に受けるためには、いくつかの重要な注意点があります。これらを守ることで、リスクを最小限に抑えた治療が可能になります。
治療前の血圧管理
歯科治療を受ける前に、血圧が安定していることが重要です。収縮期血圧が180mmHg以上の場合は、リスクが高いため治療を延期することがあります。
治療当日は、普段通りに降圧薬を服用してください。薬の服用を中断すると、逆に血圧が急上昇するリスクがあります。
また、自宅で定期的に血圧を測定し、記録しておくことをおすすめします。これにより、ご自身の血圧の傾向を把握でき、歯科医師に正確な情報を伝えることができます。
服用中の薬の情報提供
歯科治療を受ける際には、服用している薬について正確に歯科医師に伝えることが非常に重要です。特に降圧薬や抗凝固薬(血液をサラサラにする薬)は、歯科治療の方針に大きく影響します。
一部の降圧薬(カルシウム拮抗薬)は歯肉増殖(歯茎が腫れる)を引き起こすことがあるため、歯科医師がその副作用に対応した治療計画を立てることができます。
お薬手帳を持参するか、服用している薬の名前と用量をメモしておくと良いでしょう。
ストレスと緊張の軽減
歯科治療に対する不安や緊張は血圧上昇の大きな要因となります。リラックスするための工夫として、以下のことを心がけましょう。
- 予約時間に余裕を持って来院する
- 治療前に深呼吸やリラクゼーション法を試す
- 不安なことは事前に歯科医師に相談する
- 音楽を聴くなど、気分を落ち着ける方法を見つける
当院では患者さまの緊張を和らげるために、丁寧な説明と快適な診療環境づくりを心がけています。不安なことがあれば、遠慮なくお話しください。

歯科医院での高血圧患者への対応
私たち歯科医師は、高血圧の患者さんに安全な治療を提供するために、さまざまな対応を行っています。ここでは、当院で実施している高血圧患者さまへの対応について説明します。
治療前の血圧測定
高血圧の患者さまには、治療内容に応じて治療前に血圧測定を行います。これにより、その日の血圧状態を把握し、治療の可否を判断します。
血圧が高すぎる場合(収縮期血圧180mmHg以上)は、患者さまの安全を考慮して治療を延期し、かかりつけの内科医への受診をお勧めすることがあります。
適切な麻酔薬の選択
高血圧の患者さまには、血圧上昇のリスクを考慮した麻酔薬を選択します。必要に応じて、エピネフリン(血管収縮薬)を含まないものを使用することもあります。
また、麻酔注射の際の痛みを最小限に抑えるために、表面麻酔の使用や、細い注射針の使用、ゆっくりとした注入など、さまざまな工夫を行っています。
治療時間と予約の配慮
高血圧の患者さまには、長時間の治療によるストレスを避けるため、短時間で区切った治療計画を立てることがあります。また、朝一番など、比較的血圧が安定している時間帯に予約を取ることも有効です。
当院では患者さま一人ひとりの状態に合わせた治療計画を立て、無理なく安全に治療を進められるよう配慮しています。
医科歯科連携の重要性
高血圧の患者さまの歯科治療では、かかりつけの内科医との連携が非常に重要です。必要に応じて、内科医に患者さまの状態を確認したり、治療方針について相談したりすることがあります。
特に、重度の高血圧や合併症がある場合は、内科医と歯科医師が情報を共有することで、より安全な治療が可能になります。
高血圧に関連する口腔内の問題
高血圧自体が直接口腔内に問題を引き起こすことは少ないですが、高血圧の治療薬による副作用や、高血圧に関連する生活習慣が口腔内の健康に影響を与えることがあります。
降圧薬の副作用
一部の降圧薬、特にカルシウム拮抗薬(ニフェジピン、アムロジピンなど)は、副作用として歯肉増殖(歯茎が腫れる)を引き起こすことがあります。歯肉が腫れると歯磨きがしづらくなり、プラークが溜まりやすくなるため、歯周病のリスクが高まります。
また、多くの降圧薬は口腔乾燥(ドライマウス)を引き起こす可能性があります。唾液の分泌が減少すると、虫歯や歯周病のリスクが高まるだけでなく、口臭や味覚障害の原因にもなります。
口腔ケアの重要性
高血圧の患者さまは、口腔内の健康維持がより重要になります。特に歯肉増殖や口腔乾燥がある場合は、以下のケアを心がけましょう。
- 丁寧な歯磨きと歯間ブラシやフロスの使用
- 定期的な歯科検診とプロフェッショナルクリーニング
- 口腔乾燥がある場合は、こまめな水分摂取
- 低刺激の歯磨き粉の使用
当院では、高血圧の患者さまの口腔内状態に合わせたケア方法をアドバイスしています。お気軽にご相談ください。
まとめ:高血圧患者が安心して歯科治療を受けるために
高血圧の患者さまが安心して歯科治療を受けるためには、患者さま自身の準備と歯科医師の適切な対応が重要です。この記事でご紹介した注意点をまとめると、以下のようになります。
- 治療前に血圧を安定させ、降圧薬は通常通り服用する
- 服用中の薬について歯科医師に正確に伝える
- 不安や緊張を軽減するための工夫をする
- 定期的な歯科検診を受け、口腔内の健康を維持する
- 内科医と歯科医師の連携を大切にする
高血圧があっても、適切な管理と対策を行えば、安全に歯科治療を受けることができます。不安なことがあれば、遠慮なく歯科医師に相談してください。
当院では、患者さま一人ひとりの状態に合わせた安全な治療を心がけています。高血圧でお悩みの方も、お口の健康のために定期的な歯科検診を受けることをおすすめします。
歯科治療に関するご質問やご不安がございましたら、いつでもお気軽に登戸グリーン歯科矯正歯科までご相談ください。皆様のお口の健康と全身の健康をサポートいたします。
歯科医師 山縣奈々子
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