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出産後・授乳中の歯科治療と産前の定期検診について
前回は妊娠中の歯科治療についてお話しさせていただきました。今回は歯科治療ではなく妊娠中の定期検診はどうなの?ということや産後の授乳中の薬剤使用についてをお話しいたします。
妊娠中・授乳中のクリーニング・定期検診について
妊娠中はホルモン変化の影響で特定の歯周病菌が一時的に増加し, その影響で歯茎が腫れやすくなったり出血しやすくなったりすることがあります。また, つわりの影響で歯磨きの回数や習慣が途絶えがちになることもあります。しかし同時に歯周病に罹患している妊婦さんと早産や低体重出生児のリスクとの相関関係も近年は指摘されています。また, 産前産後は「影響がないとされている」とはいっても大切なお子様のことを考えると歯科治療時に薬剤を使うことをためらわれる患者さんも少なくありません。ですので大きな処置が必要にならないよう予防の観点からも, 無理のない範囲で妊娠中期頃(妊娠4ヶ月3週から7ヶ月)の間に定期検診に来ていただいて定期検診やクリーニング, 歯磨き時のアドバイスなどを衛生士さんにしてもらうのもおすすめです。また, 歯科医院では扱っている歯磨き粉の味や香りも多岐に渡るので, 妊娠中歯磨き粉の匂いが苦手, という方にも歯磨き粉のフレーバーをお試しいただく良い機会になるかとも思います。
授乳中の歯科治療について
出産後の歯科治療時の患者さまの不安事項としては母乳を介した乳児への薬物移行の危険性が挙げられます。実際, 母乳を介して薬物やアルコール, カフェインなどは乳児へ移行します。このうち薬剤に関しては, 「相対的乳児薬物摂取量」(RID)という, 薬剤が母乳を通じて乳児に影響を及ぼす目安となる指標や Dr. Hale7’s Lactation Category(Medications and Mothers’ Milk; MMM)という指標が設定されており, これらの指標を総合的に判断した上で投薬の安全性が評価されています。これらによると歯科で一般的に使われる局所麻酔薬(リドカイン)や抗生物質(アモキシシリン), 鎮痛薬(カロナール, ロキソプロフェンナトリウム)などは問題なく使えます。
また, 授乳が頻回でない場合には授乳後に服薬するなどの工夫も有効です。
母乳栄養の利点
母乳は乳児の栄養面で優れているのみならず, 感染症罹患率を低下させたり, 免疫機能・神経発達を促進させたり, 認知能力を向上させたりするとの報告があるため, 乳児にとって多大なるメリットがあります。また, 近年では, 授乳すること
によってお母様の子宮収縮を促し, 乳がんや卵巣がんの発症リスクを抑えることや, 糖尿病の予防につながることもわかってきているそうです。つまり母子ともに多大なメリットがあるのです。ですので, 可能な限り, 母乳栄養を継続しながらの歯科治療が望ましいとされています。
歯科治療時の安易な判断をきっかけにそれ以降の母乳栄養を途絶えさせたりすることのないよう, 使用薬剤を慎重に選択して患者さまとお子様にとって最良の状況で治療ができるよう今後改めて私たちの歯科医院でも努力していきます。
参考文献
口腔外科研修ハンドブック 第1版 医歯薬出版株式会社
神戸医療センター 「妊婦授乳婦へ処方される先生方へ おくすり情報」
国立育成医療研究センターHP
登戸グリーン歯科 歯科医師 南

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