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妊娠中に歯科治療をしてもいいの?薬の使用
特に配慮すべき点は薬の使用です
妊娠中から授乳中にかけては大切なお子様のことを考えるとご自身の歯科治療を受けるかどうかに不安を感じるお母様も少なくありません。特に配慮すべき点は薬の使用です。産前産後の全期間を通して絶対禁忌なものもあります。例えば, 歯科で処方されることは一般的でありませんが, テトラサイクリンという抗菌薬があります。これは胎児・乳児の歯の沈着し, 歯を青色に変色させるからです。今回は妊娠中から授乳中の歯科治療の可否について主に薬剤の観点からお話しさ
せていただきます。
妊娠中の歯科治療
妊娠期間は一般的には280日(=40週)とされており, 初期・中期・後期に分けられます。この3つの時期によって使える薬剤も異なってきます。薬の選択は, 薬の胎盤通過性, 投与経路, 薬の胎児への危険度, 週数に応じた胎児への影響度
などを考慮して決定されます。
1. 妊娠初期
妊娠初期とは妊娠 1ヶ月目から4ヶ月2週目とされています。この時期の間には胎児の脳や心臓, 目といった様々な器官が作られる時期が含まれており, 薬剤による流産や奇形の起こるリスクの高い時期です。また, 妊娠1週目にはご自身の妊娠に気づかないことも多いため, 妊娠可能性の有無を申告していただくことも大切です。また, この時期はつわりも多く体調が安定しないため, 緊急性を要さない場合は歯科治療を延期するのも良いでしょう。急を要する歯科治療が必要な場合, 局所麻酔薬はリドカインを使用し, 抗菌薬はペニシリン系(サワシリンなど)やセフェム系, 鎮痛薬はアセトアミノフェン(カロナール)を必要最低限の用量で処方します。
2. 妊娠中期
妊娠中期とは妊娠4ヶ月3週目から7ヶ月までを指します。この頃になると期間の形成もほぼ終了しているため, 薬剤による催奇形性リスクも減少します。母体の状態も落ち着いてきます。そのため, 必要な歯科治療はこの時期に行うのが望ましいとされています。ただし, 抗菌薬や鎮痛薬, 局所麻酔薬は初期と同様のもの(サワシリンやカロナール)を選択し, 必要最低限の容量で処方します。
3. 妊娠後期
妊娠後妊娠後期とは妊娠8ヶ月から10ヶ月を指します。この時期でもっとも注意すべきことはロキソニンやボルタレンといったNSAIDsと呼ばれる鎮痛薬を絶対に使用しないことです。これらの薬はプロスタグランジンE2の合成を阻害するため, 胎児の血液循環に多大な影響を及ぼします。死亡例も報告されているので絶対に使用禁忌の薬剤です。鎮痛剤が必要な場合は引き続きアセトアミノフェン(カロナール)を使用します。
また, 胎児の成長により仰臥位(仰向けの体勢)を長時間続けると子宮が体の右側を走る下大静脈を圧迫し, 低血圧による失神や悪心, 顔面蒼白などのショック状態を症状とする「仰臥位低血圧症候群」を引き起こすことがあるため, 可能な限り治療は座位もしくは左側を下に向けたファーラー位で行うようにします。また, 麻酔はリドカインを使用し, 子宮収縮・分娩促進作用のあるフェリプレシンを含有しているシタネストは使わないようにします。
今回は妊娠期間を初期・中期・後期に分けて起こりうるリスクと使える薬剤, 使用禁忌の薬剤についてお話しさせていただきました。妊娠中のクリーニングはどうなの?ということや授乳中の薬剤の影響は?と一った内容はこちらのリンクからご覧ください。
歯科医師 南まい

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