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乳歯列期の矯正治療
乳歯列期とは
乳歯列期とは3歳から6, 7歳ごろまでのすべて子供の歯の時期を指します。この時期は本人の協力度の観点から矯正装置の使用に限界があります。また, 歯の生え替わりによって気になっていた歯列不正が解消されることもあります。ですのでブラケットをつけたりするようないわゆる「矯正治療」は行いません。しかし, 乳歯列期の歯の発育はその後の治療や予後に多大な影響を与えるため, 乳歯列期に応じた治療・介入の可否は慎重に判断する必要があります。
どんな乳歯に矯正が必要?
乳歯列期で治療・介入が必要となるのは, 大きく分けて
1. 歯の異常
2. 口腔習癖(お口周りに関する癖)
3. 咬合関係(噛み合わせ)
の異常の3つです。
1. 歯の異常
乳歯列期に虫歯で歯を早期(生え替わりの時期よりも一年以上前)に抜歯した場合, 抜けたところをそのままにしておくと前後の歯が寄ってきて大人の歯(後継永久歯)が萌出してくるスペースがなくなってしまいます。このスペース不足を防ぐために「保隙装置」というものを利用する治療を行います。
また, 特定の歯だけ強く当たったり, 早く当たっていたりする場合には, 顎の偏位(左右へのずれ)を誘発し, 最終的には骨格性の不正咬合になっていく恐れがあるので歯を削って(咬合調整)左右均等に噛み合わせるように調整します。
つまり, 一番見えて気になるところではありますが, 単に「前歯の歯並びが悪い・ガタガタしている」という状態はこの時期では治療の対象にはならないのです。
2.お口周りに関する癖(口腔習癖)がある
3歳を過ぎての指しゃぶり(吸指癖), 舌を出す癖(弄舌癖), 唇を噛む癖(咬唇癖)やいわゆる「お口ぽかん」(口唇閉鎖不全)といった癖(口腔習癖)は将来的に前歯部開咬(前歯が噛み合わない噛み合わせ)や上顎前突(いわゆる出っ歯)を引き起こすので, 器具や自分の筋肉の機能を使って積極的に治療していきます。
2. 噛み合わせの異常(咬合関係の異常)
この時期に注意が必要な咬合関係の異常, つまり噛み合わせの異常には,
①前歯部反対咬合
②交叉咬合
③下顎遠心咬合
④開咬
の4つがあります。これらは将来的に自然に治っていくことが少ないので注意が必要です。
①下顎前突(=受け口, 前歯部の被蓋が逆の状態)
乳犬歯から乳犬歯まで6本の反対咬合は, すでに骨格的な問題があったり, 骨格的な問題に発展していく可能性があるため乳歯列期からの治療が必要となる可能性が高いです。4乳前歯のみの反対咬合は自然治癒する可能性も高く, 今の噛み合わせが反対だからといって必ずしも永久歯も反対になるとは限らないので, 生え変わりまで経過観察して治療の必要性を見極める必要があります。乳歯列期の治療としてはムーシールドという上顎の口唇圧を排除しつつ舌を挙上して上下の歯の重なり具合(被蓋)を治す装置を使うことが多いです。
②交叉咬合(=臼歯部の被蓋が逆の状態)
交叉咬合とは, 上下の顎の位置が交差してしまっている状態です。この状態が続くと乳歯が不正な位置で干渉する(早期接触)ので, 下顎がずれた位置にあるのが常態化してしまうので, 放置すると非対称の顔貌になってしまいます。これも拡大床を使うことが多いです。
③下顎遠心咬合(=下顎が小さくて後ろにある状態, 出っ歯に見える状態)
ヒトの顎骨の成長は上顎が先行し, 乳歯列期はまだ下顎の発達時期ではないため, 一般的には積極的な治療は必要ありません。ただし, 著しく上顎歯列が狭い場合には将来的に不正咬合になりやすいため, 上顎歯列を広げる治療を行います。また噛み合わせが深い場合
には噛み合わせを高くする治療も併せて行います。
④開咬(=前歯部が噛み合わない, 上下顎間に隙間が空いている状態)
これは指しゃぶり(吸指癖)が原因であることが多いので, 習癖を取り除く取り組みが必要です。今回は大人の歯が生えてくる前の乳歯列期の治療の可否も目安についてお話ししました。今後, 混合歯列期(乳歯と永久歯が混在している時期)や永久歯列期のご説明もしていこうと思います。
参考文献:歯科矯正学第5版 医歯薬出版株式会社, 日本矯正歯科学会Hp
登戸グリーン歯科・矯正歯科
歯科医師 南
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