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MRONJ(ムロンジェイ)とは「薬剤関連顎骨壊死」といいます
MRONJとは
今日はMRONJという病気についてお話ししていきたいと思います。
まずMRONJ(ムロンジェイ)とはMedication-related osteonecrosis of the jawの略で, 日本語に直すと「薬剤関連顎骨壊死」であり, 病気の名前です。
どういった病気かというと, ある特定の種類のお薬を飲んでいることが背景となって顎の骨が感染により腐ってしまう病気です。
この「特定の薬」はまとめてARA(antiresorptive agent)と呼ばれ, 大きく分けて骨粗鬆症薬(ビスホスホネート)と抗がん剤(抗RANKL抗体)があります。
もちろん, これらのお薬を飲んでいるからといって何もしなくても骨が腐っていくわけではありません。
歯科との関わりで言うと, このARAを服用している患者様に対して不適切な入れ歯がお口の中にはいっていたり, 歯周病が悪化していたり, 虫歯を放置していたり, その結果歯を抜いたりインプラントをいれたり…といった体内(顎骨)への感染の要因があると顎骨壊死を来たすリスクが健常な患者様の1.2倍程度上昇すると言われています。MRONJにかかるとどんな症状が出るのでしょうか
MRONJにかかるとどんな症状が出るのでしょうか。
MRONJには0から3の4つのステージがあります。ステージ0:「他の疾患と区別がつかないけれど, MRONJである可能性がある」という段階です。
ステージ0のMRONJでは50%は進行せずに治癒するとされています。
ステージ1:無症状で, 感染を伴わない骨露出が認められます。
ステージ2:感染や炎症を伴う骨露出/骨壊死を認める段階です。
ステージ3:骨壊死の範囲が広がり, 病的な骨折が生じることもあります。
MRONJの治療法
MRONJの治療法は, まずは抗菌薬の投与や洗浄, 重症例では病的な壊死骨を完全に掻爬することです。
では, このような薬を飲んでいる患者様は歯科との関わりの中でどう過ごしたら良いのでしょうか。
現在の歯科医療には, どこの歯科医院で治療を受けても一定の水準の治療が担保されるように, 学会による「ガイドライン」や「ポジションペーパー」という診断や治療の基準が定められています。
MRONJに関しても, 日本口腔外科学会が「MRONJポジションペーパー2023年度版」を出しています。定期的なクリーニングでの衛生管理・予防
「MRONJポジションペーパー2023年度版」によると, まず, 定期的なクリーニングでの衛生管理・予防が非常に重要です。重度の歯周病や虫歯ができてしまうと顎骨に感染が波及し, 顎骨壊死に至るリスクが高まるからです。
また, ARAを投与することが決まった段階で, 投与開始前に必要な歯科治療は完了させておくことも有効な予防手段となりますので, 整形外科や内科の主治医の先生にも事前に相談しましょう。では, もし抜歯となるような病態になった時はどうしたら良いでしょうか。
ポジションペーパーではARAの休薬は推奨していません。
それは休薬によって得られる利益がないからです。癌
特に, 癌でARAを服薬している場合, 休薬をすることはすなわち癌治療を中断することを意味します。
この場合は, 中断することと顎骨壊死のリスクを天秤にかけた時, 休薬しないのは明白ですよね。骨粗鬆症
骨粗鬆症でARAを服用ないしは注射をしている場合も基本的に休薬のメリットはありません。
かといって短期であれば休薬による害もないとされてはいます。
長期的な休薬により骨折のリスクが上昇する場合においても基本的に休薬はしません。インプラント治療に関して
では, インプラント治療に関してはどうでしょうか。
これも現段階では「禁忌ではないが, 低容量ARAに加え, 糖尿病, 自己免疫疾患, 人工透析中, 他の骨修飾薬の投与歴などがある人に関しては入れ歯やブリッジなどの代替療法を検討すべき」とされています。
つまり, ARAの服薬に加えて免疫力の弱い患者様には積極的に実施しない方が良いということになります。
どんな処置をするにしても, ARA投薬中の患者様に対する歯科治療においては, 観血的処置(出血を伴う治療)をする際は侵襲(切開等の範囲)は最小限に, 滅菌状態を心がける, 骨鋭縁部を削除する(尖った骨は残さない, )縫合によって緊密に閉鎖するといった深部の感染を排除する予防策を取ります。
MRONJという病気に関して, まだ研究や根拠となりうる論文の数が少ないため, あくまでもこれらは2023年のポジションペーパーに基づく現段階での見解なので, 今後研究が進むにつれて治療方針もより具体的に, 明確に定まってくるでしょう。参考文献:日本口腔外科学会 顎骨壊死検討委員会ポジションペーパー2023歯科医師 南
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